成年誌もそこそこ読みます、平八です。
今夜は我が道を貫き通した挙句生けるレジェンドになりそうな投稿職人伝記「人物日本の歴史 三峯徹」のレビューです。
ヤングコミック掲載、作画・金平守人 監修・稀見理都両先生の手による意欲作です。
ヤングコミックはその名の通り基本的に成年誌なので、年齢制限に引っかかってしまう方はご注意下さい。
令和の奇書・投稿職人伝記
私の知りうる限り、こうした読者ページの華ともいえる在野の職人を取り上げた作品はついぞ見たことがありません。
昭和のジャンプキッズでしたので例としてジャンプ放送局を挙げますが、あれほどの規模を誇った読者参加型企画でも「竜王は生きていた物語」とかハガキ職人単独フィーチャー作品は無かったわけです。
まあ邦宅杉太氏(現・八神健先生)はその気になればご自身で描くことが可能なので将来的にはその限りではないと考えておりますが。
あすなろ明日菜氏との確執の裏側とかめっちゃ見たくないですか。
タイトルは「邦宅杉太はなぜあすなろ明日菜を殺さなかったのか」でひとつ。
閑話休題。
本作は実に三十数年もの間、一般誌、成年誌問わずハガキによる文章やイラスト投稿を続けた職人の道程を時代とともに振り返る形式で、表紙からも分かるように漫画で学ぶ歴史シリーズを強く意識しています。
物語はともちゃんもとい三峯氏の幼少期から始まるので、三峯氏に対し全く基礎知識がない方でも安心。
つうか最初は文字投稿職人だったというのは私も知らなかった。
そして正直に告白しますと私が三峯氏を認識した21世紀初頭の頃、私は氏の絵はあまり達者ではないと思っていました。
しかしそれだけで切り捨てるにははばかられる何かが既に当時からあったというか、何度か見かけるうちにその特徴的な絵柄と添えられた文章が何故か心に引っかかるようになりました。
「そんな頻繁に見るってことはアンタ結構成年誌読んでない?」と勘のいい方ならお気づきかと思いますが、その通りです。
それはともかくとして、技術の巧拙より何より「俺はこういうものを表現したいんだ」という強い気持ちが宿っているから人目を惹いたのだと今は思いますね。
そして圧倒的な物量と継続力。
これが投稿界において氏を他者と一線を画した存在に押し上げた要因でしょう。
凡人にはまずこの継続というのが何より難しい。
自己の経験に基づいてお話ししますが、単発でお絵かきをしたとしてもそれを毎月、一定量続けるとなると途端に及び腰になります。
何かと理由をつけて今日は休み、と自分を納得させているうちに描くことから遠ざかってしまうんですね。
何故か今私の胸が痛んでいるのですが加齢による心臓疲労のせいでしょう。
さておき本作は2020年10月現在「どの雑誌を見ても載ってる見知らぬ先駆者の姿に発奮する青年・三峯徹」が描かれたところで一旦完結していますが、やがては投稿を続けることと辞めることへの葛藤が描かれるのでは、と今から期待しています。
あと、ヤングコミックはなんか各作品のキャラクター人気投票を毎号やってまして、本作が初掲載された2020年6月号の投票結果が三峯徹堂々の二位。
美少女漫画誌の人気投票に割って入る実在の中年男性。
意味が分からない。
アンタら三峯徹が好きすぎるだろ。
神は細部に宿る
前述した通り、本作は三峯氏の成長を描きつつ時代の節目に何があったかを主に当時の雑誌とともに振り返る構成です。
学習まんがと銘打っているだけあって若者と博士(稀見理都はかせ)の問答形式も随所に見られます。
その際、実例として描かれる雑誌の描写がとにかく細かい。
各年代の雑誌はこんなだったという空気を醸し出すのに成功しています。
これらが全て模写らしいというのがまたオドロキ。
「ああ!あったあった!!」と自分の知っている年代になると思わず心の中で手を叩くほど精密で、そして画像は小さいです。
いやまあ1ページに色々詰め込まないといけないからひとつひとつの画像が小さくならざるを得ないのは分かりますけど勿体なくない?
こんなにカッチリ描いてるのに。
しかしこういったある種不器用な作風が金平先生の持ち味かも知れないのでこれ以上は申し上げますまい。
三話で第一章完
えっ、て思った。
カロリーの高い雑誌の作画にこだわりすぎたのでは、と勝手に思っていますが三峯氏がペンギンクラブと巡り合うところで一旦終了しました。(2020年8月号)
いくら月刊誌とは言えこんなに早く第一章で区切ったというのは元からその予定だったのかも知れませんね。
また最終ページのペンギンクラブ模写の雰囲気再現度がすごいので是非実物を見てほしい。
資料を集めるため、とかラストページに書いてましたので当時の雑誌を収集するために古本屋巡りに旅立ったのかなと思っていますが、この作品に出てくる資料ってブックオフとかには売ってなさそう。
そしていつ再開するかも分からないのでヤンコミ購読は続けていますが、前述の人気投票では9月号、10月号ともに三峯氏は四位でベスト5にランクインしていた(五位までは名前が出る)ことを申し添えておきます。
もうホントどういうことよソレ。
私と金平守人先生
二十数年前、桜玉吉先生目当てでコミックビームを購読していた時期があって、金平先生の作品はその頃読んでました。
主に一話完結のオムニバス漫画を担当されていて、中でも「真剣を携えた学生風の女子が無言で無辜の一般人を次々と撫で斬りにして最終的に刀を自らの腹部に突き刺して絶頂のうちに死亡」という「ナンセンスにもほどがある」作品が印象に残っています。
正直なところ「これは日常に潜む怪異と不条理を示しているのかも知れない」という仮説ぐらいしか今もって立っていないのですが、未だに金平先生と言えば最初に思い浮かぶのがコレなので、私の心に爪痕を残した作家先生のひとりなのです。
その後もエッチな漫画の描き方講座(「こんな乳首で興奮できんのか!」「はい、わりと…」でメッチャ笑った)や本誌で追わないと多分意味が分からない連載島、そして本作と仕事を途切れさせることなく創作活動を続けられていることに感銘を受けています。
というかウィキペディア見てきたら結構な巻数の単行本を出されていて驚きました。
継続は力なり、と改めて思わされましたね。
ただ途中から単行本(ビームコミックス)のタイトル考えるのが面倒になったのか似たような名前の単行本を連発するようになってたのが気になりました。
ジョン・K・ぺー太先生や智沢 渚優先生なみに「単行本どこまで買ったか分からなくなる作家」だったと個人的には思ってます。
カネヒラデスカ?とKANEHIRA-DEATHなんてタイトルほぼほぼ一緒じゃねえか。
第二章開始、お待ちしています
それまではヤングコミック購読するので。
作品中に挿入される三峯徹氏によるコラムも読み応えがあるし、2020年10月現在全三話なのでまだ追いつけますよ。(連ドラとかでよくあるアオリ)
(追記)ヤングコミック2020年12月号より第二章・疾走編開幕
思ったよりも早かった気がしますが、11月発売のヤングコミックより再開とのこと。
そして11月号ではついにキャラクター人気投票ベスト5から陥落してしまったのですが(この号は掲載されてないので当たり前と言えば当たり前か)3ヶ月後の人気投票では再び三峯徹氏が返り咲くことでしょう。
まあ…第一位の吉野貴和子さんが強すぎるので優勝は難しいかも知れませんが…
とにかくにも、来月が楽しみです。