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絶望の遺伝子を継がされかけた「神威事変」レビュー

作品を味わうには取り巻く環境も知っておきたい、平八です。
 
今夜は進撃の巨人のDNAを継ぐと言われた作品「神威事変」のレビューです。
 
 

進撃の巨人から受け継がれる「絶望」の遺伝子

 
イヤな遺伝子だな。
 
こちらは第一巻のオビに記載された文句ですが、もっと直接的に「進撃の巨人の後継者」のような言い方をしたアオリがあったような気がして探しましたが見つかりませんでした。
 
内容は、と言いますと時は1931年、舞台は日本。
 
欧州との大戦を経て日本が新たに直面した脅威は人間ではなく異形の怪物「神骸」だった。
 
それに対抗しうるのは同質の力を持つ「白の神骸」およびそれらを使役する異能の人間「雷電兵」
 
崩壊した東京で決戦の火蓋が切られた。
 
世界の半分は敵の神骸に蹂躙されており、日本は何故か白の神骸を扱えたためギリギリで踏みとどまっているという状況です。
 
神骸が最初に現れたのは1923年なので年号から察するに大正時代から歴史が分岐したという設定でしょうか。
 
人間の力が及ばぬ怪物を相手に勝ち目の薄い戦いを挑む、という構図は確かに進撃の巨人の要素を感じます。
 
まああえて言わなけりゃ大昔からよくある物語の類型で済ませられたのですが、自分から(あるいは出版社から)遺伝子を受け継ぎましたと宣言しているので読者としてはどうしても意識せざるを得ません。
 
ここについては後述するとして、本作の特徴について私の感想を述べます。
 
 

良かった点

 
・ゴールが早々に提示されてた
・キャラの掛け合いが私好みだった
・敵のデザインが凝っていた
 
 

んっと思った点

 
・ネーミングが凝りすぎてた
・過去編の方が長かった
・単行本で作者がぶっちゃけすぎてた
 
 
「ゴールが早々に提示されてた」のはいい感じでした。
 
敵勢力の母たる女王の居場所が認知されており、物語が東京奪還というクライマックスから始まるのも良い掴みだったと思います。
 
物語がもっと続けば「実はマザーは他の大陸にもいた」とかなんじゃそりゃ、な展開もあったかも知れませんがとりあえずは女王を倒すという勝利条件が見えていたのは物語のダレを防止するのに一役買っていたと思います。
 
「キャラの掛け合いが私好みだった」
 
これはまあ個人的な話ですけど、喋るキャラが欲しいからささっと作った(作者談)久我なお美と人類のために戦うこと自体に懐疑的な鋼田哲将のふたりが好きです。
 
特に久我はひとりだけコメディの住人というか登場すると重苦しい空気が柔らかくなるような気がして読む方も緩急がつけやすかったですね。
 
初登場時は男性かと思ってましたがよく見ると最初から女性だったようです。
 
「敵のデザインが凝っていた」
 
というか基本神骸は黒一色なので色々苦労されたことと思います。
 
黒の神骸には四天王的な個体があって全員喋らないし黒いから体格とかで特徴つけるしかないという。
 
本編中で明かされなかったので想像でしかありませんが姿形に統一性がないので女王が他の生き物を取り込んでその特徴を発現させることが出来たのかなとか考えました。
 
「ネーミングが凝りすぎてた」というのは、先に挙げた神骸四天王がそれぞれ「黒狐」「猿鬼」「三千鴉」「チェシャ」と人類に呼称されているのですが「人類存亡の危機にずいぶん余裕あるな」と思っちゃいましてね。
 
激戦の中で「女王」を発見した時も「今後は女王を龍骸と呼称する」とか司令官の大迫が言い出して「いや混乱するから女王継続で良くない?」てなりましたね。
 
私だけかも知れませんが、現代日本にはない、その物語だけで通用する特殊な用語が多くなるとそれを吸収するのに抵抗を感じることがあります。
 
進撃の巨人も割とそういうところはあったのですが例えば「超大型巨人」や「鎧の巨人」など「見たまんまじゃねーか」というネーミングを組み込むことで読者の負担を軽減していたのかなと思いました。
 
「過去編の方が長かった」というのは数字的なことを言えば全11話のうち8話が過去編です。
 
2巻が分厚い
 
ただし、第一話が掲載された別冊少年マガジン2019年6月号の作品カットでは過去編主要メンバー4人が描かれていますので過去に遡るのは既定路線だったと思われます。
 
このあたりは武運もありますのであまり申しますまい。
 
「単行本で作者がぶっちゃけすぎてた」
 
まあそうだろうなとは思ったんですが、突如現れた五体目の神骸・蝙蝠扇は連載を終わらすために急遽作ったとかあけすけに書かれてました。
 
四天王を揃えた時点ではまだ終わるという話は出てなかったんでしょうか。
 
(※四天王は東京に集結していたので過去編の決戦の地名古屋に四天王が現れるのはムリがある)
 
他にも主人公・都築誠一郎が感情移入しづらいという理由でもう一人の主人公(四話アオリ文)朝倉慶一郎を作ったとか割とファンサービスのある作家先生とお見受けします。
 
 

進撃の巨人の後継者という重圧

 
 
軽々に背負わせるフレーズじゃなかったと思うんですが、時期的なことを考えると別マガ編集部はどうしても進撃が健在なうちに雑誌の柱を一本建てておきたかったのでしょう。
 
振り返りますと本作の連載開始は2019年6月号
 
同じ号の進撃の巨人は第117話「断罪」
 
エレンにより大打撃を受けたマーレが軍を再編成し、パラディ島に一大侵攻作戦を仕掛ける回です。
 
ここから2年も続くとは当時は思ってなかったのですが、とにかく進撃もゴールが見えていた時期でした。
 
そこにこの進撃の遺伝子というフレーズ、本作への期待のほどがうかがえるというものです。
 
重圧ハンパなかっただろうな、これ。
 
あんな分厚い雑誌の重責背負わされるとか冗談じゃねえ、と作者の秋山先生が思ったかどうかは定かではありませんが既に世間的な評価を得ていた進撃と何かにつけて比べられる環境であったことは想像に難くありません。
 
どうしたって世間は巨人の後継者を期待するものです。
 
そうした立場は悪い面も良い面もあったことと察しますが、とにかくも本作は2020年4月号をもって終了しました。
 
あえてオチはお話しませんがラスト3ページで「えっ」と思ったことだけは申し添えておきましょう。
 
 

この世界は残酷だ

 
ただまあそれでも人間生きてる限りは生きなければ各方面に面目が立たないとも考えます。
 
そういったことをしんみりと思わせる作品でした。
 
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