山下たろー三部作レビュー

野球のルールとかマンガで覚えるインドア派、平八です。

今夜はこせきこうじ先生作、大衆から蔑まれる男が予想外の大活躍カタルシス満点山下たろー三部作のレビューです。

正式には少年ジャンプ連載の「県立海空高校野球部員山下たろーくん」、コミックバンチ連載の「株式会社大山田出版仮編集部員山下たろーくん」「山下たろーくん うみとそらの物語」と各作品でタイトルが異なり、主人公が共通という点から本記事では三部作と呼称しており公式ではありません。

 

県立海空高校野球部員編

<あらすじ>
やる気はあるが野球下手な山下たろーくんと弱小チームな上にやる気もない県立海空高校野球部。
どうにもならない日々を送っていた彼らの前に現れた強豪・山沼高校野球部。
彼らが現れたのはほんの偶然なのだが、海空高校野球部は「自分達を視察に来た」と勘違いしてしまい…

 

忙しくても1巻〜2巻「山沼高校戦」は読んでほしい

初エピソードにしてこの物語のエッセンスがほぼほぼ凝縮されてますし、都合みたび戦う山沼高校とのベストバウトが初っぱなから来たと個人的には思っております。

勘違いから動き始める物語。

強豪に立ち向かう弱小チーム。

高い壁に挫けそうになりながらそれでも奮い立つ個性豊かな若者達。

これらがテンポよく収まっている。

山下たろーの他チームの投手をも気遣う底抜けのお人好しな一面や、今なら即刻退場モノの歩く暴力装置辰巳、初期は割と人間味が濃かったさすらいの賭博師須永その他海空ナインの個性が光る珠玉のエピソードなのです。

その後次々と立ちはだかる強豪校との激闘を経て発展途上人間・山下たろーが史上最高の野球部員となるまでが描かれるのですが、未読の方も第一エピソードだけは読んでほしいのです。

そこから先はお好みで、というか山下たろーに共感できればその後もスラスラと読み進めてしまいますので山沼高校戦はこの漫画が肌に合うかどうか、いきなりの分水嶺と言えましょう。

今ならKindle unlimitedですと全巻読めますので人生に一度は手にとってほしいものです。

 

 

サゲてサゲて、アガる!!

スタート地点が弱い上にたろー以外はやる気もないという弱小野球部だったので、当然敵はどこも強く、そのたびにたろー達はサゲられます。

通りすがりの女子高生とか、たろーに対してもはや名誉毀損レベルの悪口をぶつけて来ますので何気なく読んだらこちらの胸まで痛みますのでご注意を。

しかし英雄は英雄を知ると言いますか、強豪チームの中心選手は「海空侮りがたし」と早々に見抜き、手抜きなしの真剣勝負を挑んできますので物語は弛みなく進行します。

しかしこれはたろーくん時代にありがちな話なので仕方ないことなのですが「地元でジャイアントキリングを重ねて地区の代表に躍り出たチームが甲子園などの全国大会では異様に評価が低い」現象は今読むと古臭く感じます。

実績がない、と言えばそれまでかも知れませんがローカルな情報が千里を駆けるネット時代には見合ってないサゲ表現になってしまったようですね。

馬鹿な!あの史上最低チームの海空高校に超強豪の◯◯が追い込まれてる!!って結構な頻度で見るので途中ちょっと飽きたりしました。

 

最後の山沼戦はちょっと駆け足

まあ事情があったんだと思うのですが、これは非常に勿体なかった。

前述の通り山沼高校はうかつな一言で海空高校を乗せてしまい最大のライバルを自ら生み出してしまうという、だからこそ互いを意識し高め合うようになっていった素晴らしいポジションのチームなのです。

やったことはZガンダムで言えばジェリド・メサみたいなのですが、その後の描写で方向性が全然異なる好例ですね。

最初は長尾くんとかプライドの高さが鼻につくキャラだったんですけど、かなりの頻度で海空の試合を観に来て先輩の佐々木くんと一緒に試合の解説をしてくれる名キャラに成長しました。

だからこそ最後の山沼戦はもっとじっくり観たかったんだよな。

まあ途中山沼戦エピソードの焼き直しみたいな大中央学園が出てきた時はちょっと「?」となりましたが、週刊連載だとある程度のネタかぶりは仕方ないのかも知れませんね。

 

株式会社大山田出版仮編集部員編

 

<あらすじ>
激闘に次ぐ激闘の疲労がたたったのか、両肩ともにオシャカになってしまい失意のうちに海空高校野球部を去ったたろー。
それから十年、たろーは就職と即解雇を繰り返しながらどうにか生きていた。
知り合いの小学生から恵んでもらった給食の残りを食べつつ、偶然目にした草野球はある出版社のチームの試合だった。

 

一世風靡した彼らはその後…

 

高校野球において覇権を取ったチームが十年経ったら誰ひとり野球を生業にしてなかったというリアルさが光ります。

というかたろーと辰巳が抜けたら空中分解したんじゃないかな海空高校…

吉田も後半なんか江河原時代のユニフォームで現れるし複雑な事情を随所に臭わせつつ開幕した編集部員編。

野球部員編の名キャラクター達が随所に登場するので、前作を読んだ方も「えっこのキャラがここで?」という登場の仕方を楽しめます。

辰巳はすぐ暴力に訴えたり、相変わらず須永はよく分からなかったり。

つうかこせき先生、元山沼高校・近藤のエピソードだいぶ気に入ってるんだなと思いました。

第1話から「近藤と毬子のエピソード」を普通に語ってくるので、前作を読んでた人にはいいけど今作から初めて山下たろーにふれる人は早くも振り落とされそうになってないか心配しますね。

それは置いておいて、本作は社会から落ちこぼれの烙印を押されてくすぶっていた山下たろー(28)が偶然の巡り合わせで株式会社大山田出版の仮編集部員となり、今にも廃刊になりそうな少年誌「週刊コミックショーネン」とともに爆進していく物語なのです。

 

とりあえずここだけでも読んでほしい

個人的に編集部員編のキモは「一生懸命やることへの気恥ずかしさ」だと思っていまして、野球部員編に胸を打たれた読者が社会に触れ見聞を広めるうちに「失ってしまった大情熱」を山下たろーの姿を借りて再び見せつけてくるところに響くものがあるのです。

なのでそもそも「俺はずっとたろーのように全力で生きてるけど…?」という方にはピンと来ない話かも知れません。

逆に私は2020年になって再読したら結構ダメスパイの藤井に共感したりしました。

寄らば大樹、を気取りながらも時々自分自身の行いに疑問を抱くという藤井のキャラ造詣は社会人をそれなりにこなした今こそ身近に感じるところがあります。

前置きは長くなりましたが、要はこの物語もそこそこ長いので全部読んでる時間はないかな…と思われた忙しい方にも敢えて読んでほしいのが第48話(5巻収録)「監督決定!!」回

注釈入れますとコミックショーネンの新進気鋭の漫画「改造ねずみハムちゅー仮面」をアニメ化するにあたり監督を探しており、名作「未来探偵ドイル」を撮った宮畑監督にメガホンを取ってもらうためにたろーが体を張って面白さを演劇風に表現するエピソードなのです。

読んで頂ければお分かりかと思いますが、アラサーの男がアポなしで模造刀を持って監督の仕事場に乗り込み、刀を振り回して作品の面白さを訴えるという今ならポリス案件な上に現場は地獄のような空気だったであろうことは想像に難くありません。

しかしこうした全力の空回りは真剣だからこそ起こりうる悲劇であり、読んでるだけで恥ずかしくなる、こんな感情を呼び起こさせるこせき先生はやはり凡庸な作家ではないと確信しました。

 

 

激突する女の意地

本作は社会人漫画の一面も持ち合わせておりますので、当然(?)オフィスラブも描写されます。

大山田出版社長秘書・若山さん。

ヒット作「もんもんモンスター」の作者・犬井先生。

アニメ「改造ねずみハムちゅー仮面」主人公役の声優・上川さん。

都合3名の美女達にたろーがモテます。

野球部員編ではメインキャラに女子はおらず、モブは大体たろーを罵倒する主人公に全く優しくない世界でしたが本作ではたろーをめぐって火花を散らすシーンも描かれておりだいぶ方向性が変わっていました。

連載当時は犬井先生が来ると思ってたんですけどね。

まあ本作のあれやこれやを頭に入れて次エピソードのうみとそらの物語編を読むとより味わいが出ますので急ぎでなければ読破してから次に進んで頂きたいものです。

 

ハムちゅー仮面にこだわりすぎ

 

本当のことは知りませんのであくまで憶測という前置きをしますが、こせき先生ハムちゅー仮面のキャラビジネスを構想してたんじゃないかなって。

 

今回十数年ぶりに読み返しましたが、他の漫画内漫画に比べて設定やらエピソードの練り方やら熱量がすごい。

なんせ見開き2ページのカラーで(昔のテレビまんが雑誌を彷彿とさせる)ハムちゅー仮面のひみつ、をやるくらいですからね。

たまじーのこもったロゴ

コミックショーネンには他にも漫画内漫画として遥かなる幻愛(多分愛と誠のパロディ)やもんもんモンスターの大冒険(多分だいたいポケモン)、素浪人スペースゴクドーが存在しますが独自のロゴまで用意してるのは力の入れようが違いすぎて逆に面白いです。

しかし、吹き荒れるハムちゅー旋風も途中から諦めたのか徐々に収まっていき、終盤は600万部数を誇る少年ギーガ編集部と野球で趨勢を占ったり作家の頬を札束で叩く引き抜き作戦を受けたり顔芸で間をもたせたり色々ありました。

改めて読み返すと11、12巻ごろの顔芸の勢いで乗り切ろうとするところと伝説のへちまは衝撃でしたので、気になる方は是非ご一読願いたいです。

 

うみとそらの物語編

 

<あらすじ>
色々と仔細は不明ながら編集部員編より数年後、教員免許を取得し家庭を持った山下たろー。
寂れた島・嶋之島に建設された市立如月小学校に赴任することとなり意気揚々と島を訪れる。
しかし、本来招かれた教師は山下太郎一という別人だったことが判明し、色々と酷い扱いを受けるも徐々に人々の心を掴み、島に馴染んでいく。

大切なことはきっと変わらない

 

山下トリロジーの最終章。

編集部員編は明確に前エピソードから十年後とされていますが、こちらはぼかされています。

エピソードの合間には最低でもたろーくんが大学受験を経て教育学部課程を修了するというイベントをこなす必要があるのでストレートで卒業まで行くとたろーくんが大学を卒業するだけの学力は備えていたことになってしまうから敢えてぼかしたと邪推しているのですが本当のところどうでしょうね。

ただまあ編集部員編の残り香はたろーの細君となった元・大山田出版社長秘書の若山さんとお前はそれでいいのか辰巳だけなのでいっそ細かいことは何も明かされないほうがいいのかも知れません。

特に辰巳は「お前またたろーがいなくなったら情熱が失せたの?」と言いたくなるような顛末なので。

辰巳財閥を継ぐ気満々だった甥っ子の身にもなれよ。

ちょっと興奮して前置きが乱暴な言葉遣いになってしまいましたが、本章は特にこれと言って資源のない嶋之島を舞台として、島おこしを兼ねて作られた超エリートのための私立如月小学校とほとんど廃校してた学校を利用して作られた村立海空小学校が対立したりしながら教育に大事なものは何か、を追い求めるのが主軸です。

ついに大学を出て教員免許を取得した山下たろーが自分を慕う子供達に伝える「いまを生きる」ということ。

過去に囚われず、未来を憂えず。

豊かさとはなにか、本当に大切なものはなにかを足を止めて考えたくなる物語です。

 

のどかな住人達との交流

人口は年々減少し、緩やかに衰退しつつある嶋之島。

山下一家は手違いからこの島に降り立ち、誤解や偏見を受けながらも次第に人々と触れ合いを深めていく姿が描かれます。

良くも悪くも古い時代の一般的な日本人の姿がそこにあるというか、心を開くまでには時間がかかるけど一度人となりを理解し合えれば気の良い素朴な人達ばかりでした。

本編と大きく関わるキャラではないのですが、島の住民の厚意で暮らしせているとてもダメな感じのてっつぁんのような人もいて、こせき先生の理想の暮らしがここにあったのかなとも思いました。

編集部員編のような石を投げれば奇人変人に当たる世界観とは異なり大多数の住人は若干閉鎖的ながらまともなのですが、イダテンマンなど尋常じゃないのが平均点を押し上げてます。

他の編同様これだけは読んでほしいエピソードを挙げようとして若山さんかわいい回と運動会およびイダテンマン登場回で迷ったくらいです。

一応イダテンマンについて解説しますと、ハーバード卒の超エリート教諭である山下太郎一が海空小学校主催の運動会で「足が遅い」と悩める子供に走り方のコツを教えるために行った扮装のことです。

イダテンマンになっている時は自分でも予想だにしない言動をするらしく、ジム・キャリー主演の名作「マスク」を彷彿とさせるキャラ造形でしたね。

自分でも制御できてないところに本格サイコパスの趣を感じる。

 

2巻より。こっちが聞きたいわ

 

若山さんを推していきたい

前述の通り、編集部員編は山下たろーくんを三人の女性が奪い合うラブコメ要素も含んでいたのですが、本編終了後に色々あって若山さんが勝利者になったようです。

先ほど本作の推しエピソードを迷ったと書きましたが、キャラで言うなら若山さんを推していきます。

前章では社長秘書でかわいい以外の情報がほとんどありませんでしたが「流石にちょっと掘り下げないとマズイ」と思われたのか「割といいところのお嬢様で純真な世間知らず」という設定が追加されました。

後はまあ性に積極的なところとかね。

当ブログは全年齢なのでこれ以上は言及しませんが、気になった方はKindle Unlimitedなどでチェックしましょう。

ちなみに私の推し若山さんは29時間目 島の生活(4巻収録)です。

 

すっごいかわいい

普段どうやって生きて来たのか不思議になるレベル。

30時間目でも鼻血ダラダラ流しながら奮闘するレア若山さんが見れますので4巻はおススメです。

 

 

 

 

あと、これは若山さん直接関係ないかも知れませんがたろーと若山さんの間に生まれた総一郎くんは本物の天才であり、若山の血に秘められた力の底知れなさに戦慄します。

おとなしそうな顔して驚異の三歳児

若干三歳にして普通に小学生同士の野球試合に参戦しアウトまで取っています。

 

最後は巻きに巻いたらしい

当時私はコミックバンチの購読を止めていて最終回付近を知らなかったのですが、なんと本作は単行本収録にあたって終盤のエピソードを一部ダイジェスト化したとwikiには書かれていました。

おいおいマジかよ、どんなエピソードが省略されたのかめっちゃ気になるんですけどと思いながら第6巻(最終巻)読んだら若山さんの回想で大体分かった。

つーか須永来てたんかよとか誰このおっさんとか色々言いたいことはありますけど今や当時のコミックパンチも入手困難なので、いずれ国会図書館を訪問した時の楽しみにしておきましょうか。

 

三部作を振り返って

こせき先生、島耕作みたいに長く続けるつもりだったんじゃないかなって。

史上最高の先生になった後は村長に推薦されるのも想像に難くないし(そこで辰巳とまた揉める)ゆくゆくは市長、参議院議員、衆議院議員そして内閣総理大臣山下たろーまでは構想にあったのではと思います。

史上最低支持率の発展途上内閣総理大臣ってこせき先生が使いそうなフレーズじゃないですか?

もしこせき先生にその気があるならば、令和のこの荒んだ時世に再び山下たろーくんの活躍を見てみたいものです。

あと屈辱er大河原上の新作もな。

 

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