尊い、って言葉を覚えて色々使ってみたいコドモのような中年、平八です。
漫画に限らずですけど作品を鑑賞している時、登場人物の心の機微や関係性にハマることってありますよね。
今回の記事は特に「男の友情」について、私が今まで読んできた漫画の中から「グッと来た男同士の友情シーン」を10本ピックアップして紹介します。
また一部ネタバレが含まれますので、大丈夫な方のみこの先へお進み下さい。
目次
- 1 「さらばだ友よ」ブッダ(作:手塚治虫)
- 2 「憎い奴でござりまする」徳川家康(作:山岡荘八・横山光輝)
- 3 「拓也…お前…」築地魚河岸三代目(作:はしもとみつお・鍋島雅治・九和かずと)
- 4 「う…うう…」花の慶次(作:隆慶一郎・原哲夫)
- 5 「……」蛮勇引力(作:山口貴由)
- 6 「のび太、力をかすぜ!」ドラえもん(作:藤子・F・不二雄)
- 7 「お主やァええ男じゃ 惚れたよ」薩摩義士伝(作:平田広史)
- 8 「だがおれにはシーザーという強い味方が最後までついていたのさ」ジョジョの奇妙な冒険(作:荒木飛呂彦)
- 9 「友達ってやつはな金じゃ買えねえんだよ!!」新ジャングルの王者ターちゃん(作:徳弘正也)
- 10 「まだまだオレ達ァ、やる事がいっぱいあるんだぜ」サンクチュアリ(作:史村翔・池上遼一)
- 11 まとめ
「さらばだ友よ」ブッダ(作:手塚治虫)
偉大な宗教家・ブッダの波乱に満ちた生涯を描く漫画。
ブッダとその弟子デーパの一幕から。
彼らは青年の頃から共に修行をし、一度は道を違えて不仲になるのですがデーパが事故で命の危機に陥った時ブッダは輸血で彼の命を救います。
その後ブッダの目指す理想を実現すべく彼の弟子となり、長い時を歩むことになります。
ブッダの教えは多くの人々の心を動かし、その地位を不動のものにしていきますがやがてブッダは己の死期を悟り、より大勢の人に教えを広めるために旅に出ることをデーパに打ち明けます。
既に高齢であるブッダを案じてデーパは思い留まるよう説得しますがブッダの決意は固い。
もはや老境に至ろうとするデーパが「死なないで」と子供のようにブッダの胸で泣きます。
私はあなたに命を救われたのに、ついに恩返しが出来なかったと。
そしてブッダの旅立ちの日、ブッダはまず教団の存続を口にします。
デーパもまた命かけて、と答えます。
それを聞いてブッダは静かに
お互いの立場を忘れた友への今生の別れの言葉。
ジーンと来ます。
若者同士の友情もいいが長年苦楽を共にし老境に至った2人の友情も素晴らしいと思いました。
「憎い奴でござりまする」徳川家康(作:山岡荘八・横山光輝)
戦国武将徳川家康の生涯を描いた漫画。
鬼作左の異名をとり徳川家康を幼少の頃から厳しく育てた本多作左衛門と、徳川家きっての切れ者であり豊臣を向こうを回して交渉を続けて来た石川数正の友情の形を取り上げました。
戦国時代、信長公亡き後破竹の勢いで天下統一を進める豊臣秀吉にとって徳川家は無視できる存在ではなく様々な手を用いて干渉してきます。
作左も数正も徳川の重臣であり、豊臣家の強大さを認めつつも豊臣の下風に立つことをよしとせず、ある時は互いの立場から家康に進言し、家中の便宜を図ってきました。
三河武士にあって徳川の将来を見据えつつ豊臣の向こうを張れる人材は当時はそう多くなく、2人は同じ憂いを持つ友人同士でした。
しかしある難題を持ちかけられた時、数正は身を呈して秀吉の戦意をかわすために出奔します。
家康は彼の出奔の真意に薄々気づきながら作左と語らい、その最中作左は声を荒げます。
肩を震わせ涙を浮かべながら友の出奔の真意をあくまでたとえ話として語る作左。
それを真実と悟った家康は2人を不憫だと口にするのですが、作左は顔を背けて突っぱねるように言い放ちます。
言葉とは裏腹に男の頬を伝う涙。
おそらくは声も震えていたことと思います。
家中を引き締めるためにこれからはお前の名を挙げて家臣を叱責すると心の中で数正に詫びる作左。
虚空を睨みながら彼方にいる友に向けて「わしも負けぬ」と誓いを新たにします。
頑固一徹、鬼ともあだ名される男の目に浮かぶ涙に思わずこちらももらい泣きする名シーンです。
「拓也…お前…」築地魚河岸三代目(作:はしもとみつお・鍋島雅治・九和かずと)
元銀行員の主人公・赤木旬太郎が婿養子として築地の老舗仲卸・魚辰の三代目を継ぎ、様々な問題を解決していく漫画。
魚辰の若手従業員、拓也と若(本名・卓哉)の友情です。
ずんぐりとした容姿の拓也とスタイリッシュな若。
ルックスも性格も異なる二人でしたが若の目標である実家の干物店を再建することに取り組むうちに次第に友情が育まれていきます。
干物作りの腕をめきめきと上げていく若でしたが、ある時自分の干物に足りないものを追うあまり高級な魚に手を出し、結果ミスをします。
焦りを募らせる若。
そしてちょっとした行き違いから拓也と若は殴り合いの喧嘩になります。
彼らを見守る面々は、しかし心配するどころか微笑ましげに口にします。
拓也は若を本当の友達だと思っているから怒ったんだと。
元々拓也は穏やかな性格で本心をぶつけて来たりするのを控えるところがあるので「俺達の方が付き合い長いのにな」と仲卸の先輩達も冗談めかして言います。
拓也の気持ちを知り、若の心がほぐれます。
いいですね。
これから一人前になろうとして切磋琢磨する若者同士の友情。
こちらの作品は全42巻ありますが、拓也と若の友情を堪能するにはコンビニコミック版のセレクション「魳」をオススメします。
若初登場から彼らの道のりをまとめて読めます。
本作はこれ以外にもオススメしたい友情カップリングがありますが、一作品から一組という手前のルールにて割愛します。
「う…うう…」花の慶次(作:隆慶一郎・原哲夫)
天下御免の傾奇者・前田慶次の痛快戦国絵巻。
故あって脱藩した慶次と加賀藩の柱石と目される奥村助右衛門の心に残るシーン。
叔父御であり加賀藩の藩主でもある前田利家から元々よく思われていなかった慶次は、ある致命的な出来事がきっかけで知らず窮地に立たされます。
※原作の「一夢庵風流記」では割と直球でヤバかったのですが、漫画版は表現がマイルドになってますね。
事態を放置しておけば藩を揺るがしかねないと判断した助右衛門は慶次を斬らねばならぬと思い至ります。
しかし慶次はこれまでにも共に死地をくぐり抜け友誼を深めて来た間柄。
助右衛門は一睡も出来ず朝を迎えます。
ここで2人の友情の深さを物語るのは、思いつめた顔で現れた助右衛門を見た慶次は「こいつが斬りたいって言うなら斬られてやるか」と腹を決めるんですね。
思わず「そんな友達オレにいるっけなあ」と悩んでしまうほどの潔さと全幅の信頼でした。
2人きりで盃を交わす夜。
「そろそろ始めたらどうだ」と促す慶次。
返杯を合図に助右衛門の凄まじい抜刀が慶次を襲います。
しかし用心のために帷子を着込んでいたことが仇となり、慶次は無傷。
首を斬れ、と促す慶次に助右衛門は哀しい心情の吐露で応えます。
そもそも私も武士ではないので完全に心情を理解できるわけもなく、ただ「死に場所を失くすってどういう気持ちなんだろうなあ」としんみりしました。
リアルタイムで読んでた頃は「助右衛門大丈夫かこれ、再起不能になるんじゃないか」と次週のジャンプが気になって仕方なかったのですが実際にはそこで仕切り直しになって次週からは佐渡攻め編が始まって肩透かしを食った記憶があります。
こちらには書き切れませんでしたが、「愛され若水殿」についても下の記事で記述しています。
「……」蛮勇引力(作:山口貴由)
人と機械が融合し、機械が支配するディストピアを築こうとする徳川一族に反旗を翻す人間・由比正雪の物語。
失業者が集められる区画を締めるボスで、かつては原子力決死隊として活躍した丸橋忠弥との友情をピックアップします。
機械仕掛けの都知事との激闘の最中、巡り会う2人のシーンを選びました。
実のところ顔を合わせるのはこの時が初めてだったわけなのですが、丸橋が名乗りを上げて入ってきて見つめ合った瞬間分かり合った、という空気が好きだったので挙げました。
からくも死線をくぐり抜けた2人はこの後親交を深め、更なる死地である徳川のお膝元である神都に2人だけで乗り込み激戦を重ねます。
その際丸橋は都知事との再戦で重傷を負い、武装も解除されてしまってとても戦える状態ではなかったため置いて行かざるを得なかったのですが、正雪のセリフに丸橋への想いが込められていて胸が熱くなります。
2人の友情シーンは他にもお惣菜を持って丸橋宅を訪問したり、敵の居城を見据えながら海辺で固い握手を交わす(フンドシで)、「友情×1」等あります。
特に「友情×1」は上記シーンとどちらを選ぶか迷ったくらいカッコいいです。
「のび太、力をかすぜ!」ドラえもん(作:藤子・F・不二雄)
説明不要の猫型ロボット漫画。
いつもいつも苦労をかけているドラえもんに休日を、とのび太が切り出し後ろ髪を引かれつつも(ないけど)何かあったらこのボタンで呼んでねとデートに出かけていくドラえもん、そんなある1日のお話です。
「お前がドラえもん抜きで過ごす?いやあムリムリムリ」
ジャイアン達に宣言したところ、思い切りバカにされます。
相当下に見られてますね。
のび太も意地になり、絶対にドラえもんを呼ばないと宣言します。
ジャイアン達は面白半分についていきますが、案の定というか色々なトラブルに巻き込まれるのび太。
挙げ句よそのガキ大将に絡まれるというどこまでついてないんだお前はと目を覆いたくなるような不運に遭遇し、もはやこれまでかと息を呑むジャイアンとスネ夫。
しかしのび太は自分の命綱であるドラえもんを呼ぶスイッチを粉々にしてやるならやれ、と居直ります。
その姿に胸を打たれた2人。そして
意気に感ずる、と言いましょうか。
スネちゃまが拳を固めるというかなりのレアシーンでもあります。
向こうのスネ夫ポジションの方も割と好戦的に見えるので3対2でも結構いい勝負になったのではないかと予想します。
ドラえもんの友情シーンと言えば6巻の「さようならドラえもん」とどちらにするか迷うのですが、友を想う心と行動が友を動かした名シーンとしてこちらを採用しました。
余談ですがジャイアンは劇場版になると男気を見せてカッコいいので「きれいなジャイアン」とか評されてますがあれは「目の前に大変な危機が迫っているのに仲間内でワチャワチャやってる」ほどタケシもバカじゃないということなのかと最近思ってます。
「お主やァええ男じゃ 惚れたよ」薩摩義士伝(作:平田広史)
江戸時代、困窮する薩摩藩に突き付けられた大規模な治水工事を発端とする事件をオムニバス形式で語っていく漫画。
基本は薩摩視点で進みますが今回挙げたエピソードは幕府より工事目付を命じられた役人・木村伊兵衛と重松を中心とした物語です。
物語の主題としては木村家の家訓でもある己という点を磨き続けることで達する境地かと思いますが、その最中に芽生えた奇妙な友情に美しさを感じます。
誠実に任務をこなそうとする木村伊兵衛に対し、あまりにダラけた仕事ぶりと袖の下を躊躇なく受け取る重松はじめ同僚達。
木村はその有様に不快感をあらわにし、何度も口論をしたり刀を抜いたりもします。
しかしリーダー格でもある重松は「オレはお前が好きだ、立派だ」と事あるごとに褒めます。
この時は木村も「心にもないことを」と思っていたのではと推測します。
重松の行動は腐敗した役人そのものだったからです。
結局彼らの間は破綻し、木村は役人を辞して人夫の立場から彼らの悪行に目を光らせる非常に厄介な存在になります。
そんな中でも重松は「やはりあいつはいい、役人にしておくには惜しい」と態度を変えません。
そして工事も終わり、江戸へ引き上げる夜、重松は疲れ果てた木村の姿を見つけます。
重松は昔のように「一緒に帰ろう、今までのことは俺が何とかする」と屈託なく呼びかけます。
木村も今までの重松の言動が本心であったことを知ったからこそのこの言葉だったのではないでしょうか。
しかし折角通じ合えたのに2人の道は決して交わることはないという切なさもありますね。
横山光輝先生の水滸伝で未だに心に残っているのが宋江の言った「落ち目になると人の心が分かる」ということなんですが、それに近いものがあると思います。
調子のいい時は周りの人間も調子よく寄ってくるものです。
調子を崩した時にも心配したり変わらず接してくれる人こそ宝です。
お節介ですがそうした人は大事にして下さい。
「だがおれにはシーザーという強い味方が最後までついていたのさ」ジョジョの奇妙な冒険(作:荒木飛呂彦)
ジョースター家の血の宿命を描く壮大なドラマ、その第二部。
主人公ジョセフ・ジョースターとシーザー・A・ツェペリは数奇な運命に導かれて人類を超えた生命体との死闘に身を投じ、生き残るために同じ師につき苦楽を共にした間柄です。
最終決戦に臨み、意見の食い違いから両者は決裂し、シーザーは単身敵の本拠地へ先走ってしまいます。
結果、善戦したものの一歩及ばずシーザーは命を落とします。
嘆き悲しむジョセフ、師リサリサ。
シーザーが最期の力を振り絞って残したピアスとバンダナを手にジョセフはシーザーの敵ワムウと対峙します。
一進一退の攻防を重ね、遂に追い込まれるジョセフ。
勝利を確信したワムウ。
しかし、勝敗の天秤はジョセフに傾きました。
シーザーの遺品によって。
それまでのジョセフは割といい加減なところもあり、ふざけているのか本気なのか分からないと評されることもありました。
それがシーザーの死により、一気に色んなものが目覚めたように見えます。
出会いが最悪だった分、徐々に打ち解けて分かり合う様がそれまでに描かれていたのでリアルタイムで読んでた時はショックでしたね。
ともあれジョセフは辛くもワムウに勝利しますが、その時のセリフがこれです。
この後のシーンでジョセフが至った境地についてより詳細に描かれますが、ここでもその片鱗を感じさせるのが私が好きな理由です。
敵の強さを称えた上で「それでも俺には友がついていてくれたから勝てた」と静かに語るところがかえって胸に来ますね。
「友達ってやつはな金じゃ買えねえんだよ!!」新ジャングルの王者ターちゃん(作:徳弘正也)
サバンナの動物達の平和を守るために戦うジャングルの王者ターちゃんとその仲間達の物語。
ウポポ族の勇者アナべべはかつてはターちゃんと互角に渡り合える実力者でしたがある時大金を手にしてからハングリー精神を失いここ一番の強さが発揮できなくなっていました。
そんな折、敵対勢力からターちゃんの力を弱めるための細工を手伝ってほしいと持ち掛けられます。
大金を積まれ、話を受けるかに見えたアナべべ。
しかし。
シンプルだけどアツくていいですね。
また、後のエピソードになりますけどアナべべが殺し屋に狙われている時に奥さんのズベタが「ただとは言わない」と札束を出そうとした時ターちゃんは「それを受け取ったら我々は友達ではなくなる」と答えるシーンがあります。
これはアナべべのセリフを言い換えてるようなもので、2人が同じ価値観であることを示唆しているようでより彼らの結びつきを感じますね。
余談ですけど近年の少年漫画界は色々と規制も厳しくなってきましたので、もうこの漫画このまま載せるとかって無理でしょうね。
ギャグとシリアスの奇跡的なバランスが絶妙な傑作なので、機会があれば読んで頂きたいものです。
「まだまだオレ達ァ、やる事がいっぱいあるんだぜ」サンクチュアリ(作:史村翔・池上遼一)
動乱のカンボジアで少年時代を過ごし、地獄を生き残って日本に帰ってきた北条彰と浅見千秋、2人の男が日本の裏と表から日本を揺るがすために行動する漫画。
北条は極道を、浅見は政治家を志し、それぞれの困難をくぐり抜けて思い描く未来を描き切ろうとします。
そんな中、敵対組織の放った刺客により瀕死の重傷を負う北条。
生死をさまよう北条に浅見は耳打ちします。
この時既に浅見は国会議員に初当選したばかりだったので、間違っても暴力団の総長を見舞ってはいけない立場です。
他ならぬ北条もそのことを分かっているので撃たれた直後も「オレは大丈夫」というハンドサインで浅見を制したりもしました。
意識を取り戻した後も結局駆け付けた浅見を見て「早く帰れ」と握りしめた手と目で訴えます。
それで通じ合う2人。
北条も浅見も各々の世界で様々な人と親交を深め、あるいは愛されますが、彼らの結び付きが強すぎて誰も割って入れないような空気も持っています。
最初に読んだのは学生の頃でしたが、改めて読むとこの2人の絆こそが踏み込む余地のない聖域だったのではないかと今更ながらに思います。
まとめ
友情、大事。
皆さまがよい友に恵まれますよう祈りながらこの記事を締めさせて頂きます。