一時期八極拳にこっていました、平八です。
今回のレビューは私と同世代、コロコロ派の方なら記憶の片隅にとどめているであろう「ドラゴン拳」です。
連載開始がもう35年前かつ電子書籍化もされていない作品ですが、ふと立ち寄った古本屋で全巻セットで置いてあるのを見かけて逆上して購入。
これだから古本屋通いはやめられません。
注意:ここから先は派手にネタバレしますので、大丈夫な方のみ以下へお進み下さい。
まあ三十年以上前の作品なので今更ネタバレも何も…とは思いつつも。
正義無き力は暴力なり、力無き正義は無力なり
今日はこれだけ覚えて帰って下さい。
これで主人公・竜王拳の行動原理はほぼ説明がつきますし、作品全編を貫くテーマでもあります。
ある程度大人になるとこういう「ド正論」は口にするのもテレ臭くなりますし「気軽に言ってくれるなぁ」と斜に構えるようにもなります。
しかし本作が掲載されていたのはキッズのお供「コロコロコミック」であり、少年のうちは「正義とはこう!男とはこう!」と清く正しい(そしてちょっぴりエッチな)漫画を見せなくてはなりません。
これは受け売りですが、まず正しいものを知らなければワルいもの、間違っているものがなぜ間違っているのか、そしてそれらにも無視しがたい魅力があることが分からなくなるからです。
このブログでも紹介しました「野獣警察」、一見正しいことを言ってるように見えても「ちょっと待てよ」となる「デスノート」、純粋さゆえにゲスに堕ちた左門君を描く「左門君はサモナー」、近代麻雀等々。
悪漢を扱う漫画はこの世に数多くあります。
お子様達がそう言った作品の持つ「毒」でいきなり中毒を起こしてしまわないために徐々に体を慣らしていくのが妥当かと思われます。
とは言え、自分の読んでた頃のコロコロもそういう真っ当な漫画ばかりあったわけでもなく「超人キンタマン」とか心臓の弱いお母様ならタイトルだけで卒倒しそうなのも載ってたので、程度の問題でしょうかね。
あらすじ
かつて少林寺最高峰とうたわれた拳法、竜王拳(ドラゴンけん)の創始者の息子・竜王拳(りゅうおうけん)の激闘と成長を描く。
ややこしいですね。
ややこしいので主人公の方は以下拳ちゃんと呼称します。
体に流れる血のせいか、日頃の鍛錬の賜物か、初期段階から結構強い拳ちゃん(中学生)が悪の拳法を広めて世界を征服しようとする闇の組織と果てしないバトルを繰り広げます。
世界征服ってもう子供の手には負えなくね…?と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、当時のコロコロは度の過ぎた悪の組織に少年達が自分の得意な技術(ホビー)で立ち向かうというのが定型だったのでむしろ普通です。
主な流れは
悪の組織の存在が明らかになる→刺客を撃破→ボスを撃破→最初に戻る
という、少年ジャンプのバトル漫画フォーマットに近いものがありますが、その最中に行方不明だった父母のこと、竜王拳の真髄、気功を操る真竜王拳の存在など諸々の謎が解き明かされていき、読者を飽きさせません。
もっと言えば真竜王拳については数十年の時を経て再読してもよく分かりませんでした。
拳ちゃんのご尊父が竜王拳の創始者であることは語られていますが「じゃあ真竜王拳は誰が作った拳法なの?」「老師と拳ちゃんの父上はどういう関係?」などなど考え出したらキリがない疑問。
その辺一切不明のまま、真竜王拳を拳ちゃんに伝授して彼らは再び眠りにつきます。
未だに謎の残る、侮りがたい漫画ですね。
熱い友情
近頃、男が男に惚れると言うとやれカップリングだのBLだのと騒がれる風潮。
それが時代の流れというものなのでしょう。
しかし、あえて言いますが男はもっと男に惚れていいと思います。
その人の人格や生き様に感銘を受け、どうしようもなく好きになることを惚れると表現するならそれは素晴らしいことじゃありませんか。
男同士でナニすることばかり連想するからおかしなことになるんです!(物議をかもす物言い)
それはともかく、清く正しい少年である拳ちゃんは道中様々な男達を魅了していきます。(物議をかもす物言い、再見)
手のつけられない暴れ者だった少年も。
世間のせいで捻くれてしまった酔拳使いの少年も。
かつては敵だった男まで!
…しかしこれだけ臆面もなく勢いつけて惚れた、って言われるとこちらが照れ臭くなってきますね。
そういうことをさっぱり表現できるのは若さゆえでしょうか。
程よいお色気
青少年の健全な発育には必要ですね。
作者の小林たつよし先生は荒々しいアクション多めの作風にもかかわらず、品のある絵を描く方だと思っているのですが割とお色気方面も抜かりありません。
まあこういうこともやりますけど。
しかし私が本当に指摘したかったのはこのシーン。
ヒロインのひとりである蛇鶴鬼と愛鈴と背中合わせで狭い風呂に入るところ。
これよくない?
背中越しに女性の気配が感じられて拳ちゃん困っちゃう状態ですが、このギリギリのラインが私好みですね。
まあモロ見えも好きは好きですけど、こういうラインを攻めるお色気が近年は好みです。
拳ちゃんの葛藤も中学生らしくていいよね。
やっぱり見たい!
平八セレクト・名シーンベスト3
本当はあれもこれもと挙げたいシーンがあるのですが、幼少の頃に読んで心に残り、今読んでも「やっぱりいいわぁ」と思えたシーンを挙げさせて頂きます。
※ここから先は内容に関する容赦のないネタバレが含まれますのでくれぐれもご注意下さい。
…だいじな胸だろ?
かつては邪拳の徒として拳ちゃんに敵対した蛇鶴鬼との戦いの末、全てを決した一言を挙げます。
いくら強いと言ってもまだまだ中学生なので女性の体のことがよく分かってない拳ちゃん。
女とは一体なんなのか?
悩める拳ちゃんの前に現れた蛇鶴鬼。
その名の通り流麗な鶴拳と猛々しい蛇拳の遣い手で、敵ながらその美しさに翻弄される拳ちゃん。
一度は敗北を喫したものの、蛇鶴鬼を破る拳を引っさげて戻って来ます。
まあこんなんなんですけども。
思わず「大丈夫かこの漫画」と呟いてしまいますが、これも全て蛇鶴鬼を激昂させ、隙を作るための技だったのです。
若い方にわかりやすく言えばセクシーコマンドーです。(これとてもう新しくもない)
一瞬妙な流れになりかけますが、難敵蛇鶴鬼を圧倒し、この一言。
う〜ん、ニクいほどに決まった。
この回はオチで一平ちゃんに求愛されるなど、前後を考えると妙なテンションでしたが拳ちゃんのオトコが光る名シーンとして挙げました。
兄弟対決の最中、2人を気遣う母
拳法による世界支配を目論む裏少林の大王の片腕、虹魔王は拳ちゃんの双子の弟だった!
という衝撃的な展開と、道中何故拳ちゃんのお母さんらしき人が邪魔をしてくるのかという謎が解けます。
ふたりが争うのを止めたかったんですね。
しかし親の心子知らずとはよく言ったもの。
虹魔王こと竜王漢(以下漢ちゃん)は兄の姿を見ても「なんだお前俺によく似てるな」と深く詮索をせず襲いかかってきます。
もはや拳による決着以外にない、というところまで来てもなお身を呈して漢ちゃんが悪の道を歩もうとするのを押しとどめる母心。
当時はセリフだけが妙に心に残っていたのですが、今読み返してみればまだ子を持たないコロコロキッズ達に母親とはどういうものかを伝えようとしていたんですね。
しかし頑なな弟の心に母の愛は届かず、打ちのめされる母を見て激怒した兄との最終決戦。
見開きで繰り出される技と技が非常にカッコいいので是非実物を読んで頂きたいです。
最終的に裏少林大王が自らバラしてしまい真実が明らかになります。
(いくらなんでも取り乱しすぎだろとは思いました)
そしてさっきまでバッチバッチしばいていた女性が実の母と知って、なんか距離感が掴めないのか決まりが悪いのか、この照れ顔と敬語。
男臭い拳法漫画において、女性の愛を盛り込むことも忘れない秀逸な展開でした。
月光房で絶叫する拳
子供の頃に読んで感動したけど今読んでもやっぱりここですね。
記憶ではこの回を最後に掲載誌が別冊コロコロから月刊コロコロに移ったはずなので、否応なく盛り上がる回でもありました。
(この次の回も月刊一発目で気合が入っていたのか、ド派手なアクションが見られます)
さてあらすじですが、竜王拳を継承するための試練として七つの房をくぐり抜けることを申し渡された拳。
今までに何回か挑戦したというチャンと共に、途中命の危険に晒されながらも各試練をクリアしていきます。
しかし「決して言葉を発してはいけない」月光房において暗闇に落とされた拳とチャンは離れ離れになってしまいます。
闇討ちになんとか対処した拳。
その時、チャンの悲痛な叫びが闇を裂きます。
胸に去来するのは房に挑む際に聞いた戒めと、試練を共に戦い抜いた記憶。
様々な逡巡の末、遂に拳はチャンを求めて絶叫します。
ここで拳の失格は確定したかに思えたのですが、さにあらず、月光房で問われていたのは愛。
そこでもし友を見捨てるようであれば竜王拳を継承する資格はなかったのです。
このシーンがすごく好きな理由は拳も頭では声を出してはいけないと分かっていたことですね。
共に過ごした時間がフラッシュバックして、遂に押しとどめることが出来なくなり言葉を発してしまう。
やっぱこの熱い展開がいいよなあと数十年ぶりにひたりました。
あと、チャンもだましていたようで云々言ってるけどだましてるからね完全に。
次のコマの微笑みが爽やかだから流してるけど。
まとめ
時々は少年の原点に帰ろう。
三十年以上も前の作品なので手に入りにくいのは重々承知ですが、どこかで見かけたなら是非手にとって頂きたいものです。
…復刻出版サービスもあるにはあるんですけど、一冊1000円近くするのがなんか抵抗あって…
本当に見つからない漫画はいずれお世話にならざるを得ないのかなあとか思ったりもしています。
超人キンタマンとか本当に見つからないからね。
※2018年7月追記:何冊か見つけました。