こんなに昆虫の話を読むのは子供の頃以来、平八です。
今夜は原作メノ=スヒルトハウゼン教授、翻訳田沢恭子氏「ダーウィンの覗き穴」を日高トモキチ先生がコミカライズした漫画版のレビューです。
注:本作にはちんちんという単語が多用されますが決していやらしい意味で使われることはなく、真面目に生命の神秘に取り組むためにやむなく使用されていることをご了承下さい。
ただ、助手の猫耳女子にしばしばちんちんと言わせているのは日高先生の趣味ではないかと察します。
多様すぎる生物の性生活をコミカルに
生き物ってすげえな…
普段不勉強な私の第一印象です。
サブタイトルには「虫たちの性生活がすごいんです」となっており、文言通り昆虫の(人間から見れば)奇妙な性の営みや「まあ…色々あってそうなったんだろうな…」という生殖器の紹介にかなりのページ数を割いています。
そこ(ちんちん)に着目して読んでも非常に興味深い。
ただ、本作を冒頭から読んで行くと昆虫の世界だけでなく、生命とはどのようにして存続してきたのか、何故性差があり、そこには何があるのかに想いを馳せるようになります。
本作はそうした疑問と向き合うための材料、仮説を出来るだけ分かりやすく、時に軽妙な日高節に乗せて読みやすくしたコミカライズです。
そうは言っても最初は知らない昆虫の名前、教授の名前、用語に戸惑い読み進めるのに相当疲れました。
割合頭に入って来たのは二周目からですね。
ただ、男女の性の問題、駆け引きの話となると我々人類が日頃から直面することでもありますので、そうした内容はスルスルと頭に入って来ます。
具体的には
「精子はコストが低く卵はコストが高いので雌はえり好みするが雄は相手を選ばない」
ベイトマンの原理
〈本文・34ページより引用)
とかね。
身もフタもない、と天を仰ぎつつも「やっぱりそうか…薄々そうじゃないかと…」と身につまされる想いを抱えて読むと、不思議と周りの内容も頭に入ってくる。
そこからエピソード「拒絶される精子たち」「オルガスムは選択する」を読むと理解度は深まることと思います。
この辺りは誰しも興味ある内容ですし。
あとワンエピソードが8ページなので区切りのいいとこで休み休み読めるとこも小さいながらメリットですね。
なにぶん文章量も多いので一気に読むと結構疲れます。
謎の全てを解くには人間の命は短い
数々の生物の性のあり方を綴った本作ですが、今も生物学は研究の途上です。
まあそれを言ったらこの世の全ての学問は世界の謎を解き明かすまで終わることはないのでしょうが。
取り上げられたすべての内容に答えが用意されているわけでもなく、種ごとに生殖器が異なる本当の理由(個人的にはここはかなり興味深かった)など恐らく解に到達するまで今しばらくの時間が必要になると思われることも記載されています。
それらを読み進めていると、急に人間の命の短さが切なくなりましたね。
研究・学問に人生を捧げる優秀な学者が数多いても生命の神秘を解き明かすには膨大な時間を重ねなければならない。
それでも投げ出すことなく研究を続け、自分の代で遺した課題は後世に引き継いでいく。
そうした時間と努力の積み重なりの一面が本書なのだと思います。
他人が色んなものを捧げて出来上がった結晶を一端でも触れることが出来るって、本ってすごいよね。
合間合間に挟まれる日高節
私は20世紀末頃の近代麻雀読者でしたので「パラダイス・ロスト」「イタカ」あと変な耳した前田犬千代さんが主役の「ハードラック・カフェ」を読んでました。
(※ありがたいことに日高先生からツイッターで犬千代さんのことを教えて頂きました)
それ以降は「みぞれの教室」と時々コミックガンボで「トーキョー博物誌」を読み、今回久々に漫画を拝読しましたけど日高節健在なりと思いました。
ちょこちょこ本筋とは関係ないところで小ネタを入れて来るところとか。
原作は未読なので比較はできないんですが、助手の猫耳女子が合いの手を入れることでコミック版は相当読みやすくなってるのではと予想してます。
作品の性質上ネームが多くなってしまうのは仕方ないですしね。
それでも文章が長くなり過ぎないように適度に愉快な描写を挟むことで、作品が良い意味で軽快に仕上がっていると感じました。
過去作のファンとしてはグレートフリテンみたいな腰が砕けそうなダジャレが少ないとは思いましたが。
まとめ
いざ輝けるちんちんの未来へ
(161ページより引用)
まとめに引用文を持って来て申し訳ありませんが、なんか本書を表すのにこれ以上の言葉が思いつかなかったので。
これはレビュアーとしては敗北とも言えましょう。
久しく忘れていた学ぶことの面白さを思い出させてくれる一冊です。