基本猫派ですがそれはそれ、平八です。
今夜は高橋よしひろ先生作「銀牙伝説ウィード(WEED)」レビューです。
全60巻の大作、今ならkindle Unlimitedで全巻読めてしまうので気になる方はチェックしましょう。
(※2018年10月現在の情報です)
人が忘れた人情を語る作品
本作は30年以上前に流行った漫画「銀牙 ―流れ星 銀―」の続編ですが、本作からでも十分に楽しめます。
ただ前作の人気キャラや次世代が活躍するので(そも主人公のウィードからして二世なので)前作を知っていた方が倍楽しめると思います。
かくいう私もアニメ派なので赤カブト討伐後の八犬士編は飛び飛びにしか知らないんですがね。
前作読んでなくてよう言うたなと思われたでしょうが、このクソ度胸に免じてご容赦下さい。
さておき、本作は奥羽に住まう犬軍団の頭領・銀の息子であるウィードが数奇な運命に翻弄されつつ成長していく様を描いた英雄譚です。
この作品の魅力と言えば色々あるのですが、真っ先に挙げておきたいのは「仁義を通すことの大切さを教えてくれる」点ですね。
普遍的な内容でもあるため、実は年若い人達にこそ読んでほしい作品です。
「え…犬に教わるの…?」と思われた方。
確かに味方にも跳ねっ返りは居ますが、幹部クラスになるともしかして犬の方がマトモなんじゃないかと思うくらい礼節を重んじる面々です。
というかアニメで観てた時はそんな風には思わなかったんですけど本作はだいぶ任侠ものを意識しているように思えますね。
外道衆が現れる→縄張りを巡って争いが始まる→多大な犠牲を出しつつ勝利→平和が訪れる→ダ・カーポ
大筋を言ってしまうとこんな感じですが、魅力的なキャラクター達が必死に生き抜く様に感動し、一気に読みふけってしまいました。
私が特に好きなキャラはウィードの名付け親・GBと殺し屋軍団の長・ジェロムですね。
ジェロムについては後述するとして、GBは最初から戦うために振り切れていない、言わば一般犬代表の目線で物語に加わります。
そもそもからして他のキャラほど強くないしコメディリリーフを演じることが多いので仲間内でもややイジられ気味な感は否めません。
しかし、彼はウィードの名付け親であるという責任感と大切に想っているウィードと離れたくない一心で非常識なバトルの数々に身を投じていくのです。
普通こんなのと戦いたくないよな。
普段はお調子者で少し臆病なところもある彼ですが、若いウィードのひたむきさに感化されていき、自分も変わろうと努力し、そして…
ああ、59巻は涙なしには読めない。
もっと言えば96ページ。
彼が戦いの日々の中で培ってきたものが昇華する名シーンです。
これから読まれる方はひとまず59巻までは読んで頂きたい。
「60巻のうち59巻ってほとんど全部じゃねーか」と思われた聡明なあなた。
そうだけど?(悪びれもせず)
そこはまあ半分冗談ですが、強さばかりではない心の弱さを素直にさらけ出すGBの姿に私は感情移入しながら読んでいました。
時々挿入される笑いどころ
組織力を持った暴君、何かよく分からない生物を相手にして血で血を洗う戦場に身を投じるので皆サバイブに一生懸命、基本シリアスに物語は進行するのですが、割とツッコミどころはあります。
しかし、何というかそれらはわざとこちらに柔らかい腹を向けて隙を作っているような気がして、「もしかしてこれはツッコんだら向こうがオイシイだけなのでは…?」と余計な気を回してしまいます。
だって犬が犬に向かって「バッカヤロー!それじゃあまるで犬死にじゃねえか!!」て叫ぶシーンにツッコミに行ったら逆にマウント取られそうじゃん。
誤解のないよう言葉を添えますが、犬死にのくだりはものすごく真面目な戦闘時にぽいっと放り込まれるシーンで、夢中で読んでたらふっと流してしまいそうなセリフです。
あとこちらもなかなかの名言。
まさかの奥羽イズム宣言。
普段はクールな忍犬・赤目がチラと見せるお茶目な一面。
奥羽イズムなんて言葉使ってるの全編通してここだけだった。
こちらも敵の罠にはまり、生死をかけた合戦のさなかの一幕につき皆真剣なので笑っていいものかどうか複雑な感情の置き所に困るシーンに仕上がっています。
赤目だったら「どうした、何か変なことでも言ったか?」て真顔で聞いてきそうですしね。
また、戦いの合間に訪れる穏やかな時間には皆結構ギャグってます。
ムードメーカーのGBやサスケはともかく割と擬人化がキツかったり。
前脚が普通の人間みたいになって首を絞めたり正直キモかったこともあります。
ユーモアを忘れるな、戦いに身をまかせるだけではいけないという高橋よしひろ先生のメッセージなのかも知れませんね。
ジェロムに首ったけ
ジェロムは序盤のクライマックスで仲間になり、その後ラストバトルまでウィードと共に戦った歴戦の勇士です。
苛烈な戦闘のさなか部下を全員死なせてしまったと自責の念にかられ、ウィードを支えながらもどこかで死に場所を求めて彷徨っているのです。
クールかつストイック、時折見せる破滅的なその姿がたまらなくカッコいいのですが、困ったことに彼は時々ちょっと面白いのです。
何かこう…真面目に船に乗ってるのが面白かったっていうか…
ある時期から群れと少し距離を取り、単独で旅をすることが多くなるジェロムですが、その旅先で出会うトラブルが皆を巻き込む騒乱に発展したり「なかなか楽させてもらえないな…」と不憫になりながらも軽くくすぐられます。
そんな彼もちょっと小悪魔な可愛い女性とゴールイン。
流石に女房が出来たら贖罪の旅も終わったかなと見せかけて死に場所へロケットダイブ。
止まらねえなアンタ!!
最高だよ!!
新妻も何のブレーキにもなりゃしねえ!!
しかし何だかんだ言いましたけど、彼は作者にものすごく愛されているのではと感じます。
軍用犬チームとのバトルとか見せ場がいっぱいありますからね。
バトル漫画のアンサーのひとつ
この世は大なり小なり戦いで満ちていますので、バトル漫画が世に出回り支持されるのはある種当然の成り行きかも知れません。
本作も大別すればバトル漫画です。
血で血を洗うように繰り広げられる抗争。
特に海の向こうからやってきた軍用犬チームとの争いになった時は目を覆わんばかりの惨事になりました。
51巻では父・白狼、兄弟、仲間達を軍用犬達に惨殺され、生き残った朱雀が投降した敵を前に心情を吐露します。
哀しみを消すことは出来ない、しかしこれ以上の殺生は最早無用、と。
奥羽の先代・銀と現総大将のウィードと触れ合ったことで彼の心は大きな決断を下しました。
割と初期からウィードは敵であっても出来るだけ生かそうとする傾向があり、タカ派の仲間から非難されることもありました。
彼がどこまで意識していたかまでは分かりませんが、相手を武力で屈服させるのではなく、許して分かり合い、心服させる道を選んでいたんですね。
それがいつしか触れ合った仲間にも浸透し、結実した非常に印象深いシーンでした。
まとめ
男の礼儀も学べて犬種も多少詳しくなれる逸品。
まあ男の道のウェイトが大きいんですが。
最初は犬同士の命を賭けた縄張り争いだったものが最終的に環境破壊が生んだ哀しきモンスターみたいなのとバトルすることになったり行き着くところまで行った感はあります。
途中かなり人間寄りの猿が現れた時にはかなりドキドキしましたが、力なき者、正義を信じる者のためには命を惜しまず戦う奥羽衆にきっと感銘を受けることでしょう。
さて、続編のオリオンに行く前に少し休憩しましょうか。
(※一気に読んだので疲れた)