拳法ものは結構好きです、平八です。
今夜は「ドラゴン拳」でおなじみ、小林たつよし先生の拳法漫画「秘拳伝説 獅子王伝」のレビューです。
完成された王者と若獅子の流浪譚
<あらすじ>
はるかローマにて獅子を屠ることにより誕生した獅子王。
しかし彼が留守にしている間、中国全土を支配する神王朝の差し金で獅子寺と彼の村は焼かれ、一族郎党は虐殺された。
ただ一人、妻・麗華が最後までかばい通した息子・烈男を除いて。
一応現代日本が舞台だった前作「ドラゴン拳」と違い、古代かつ架空の世界の物語である本作はのっけからかなりハードです。
子供の頃に読んだ時もいきなり別嬪の奥さんが死んでて暗澹たる気持ちになったものです。
不倶戴天の仇である神王朝を打倒するという目的が作品の根底にあるため、作品としては明るくなりようがないのですが、不幸中の幸いというか息子の烈男は特にグレもせず素直に成長します。
このへんは獅子王の子育て上手を表現しているのかも知れない。
復讐に彩られた親子ふたり旅の最中でも決して明るさを失わず、時にすれ違う人々と交流し、強さを求める道を歩んでいく姿が読み手の心を温かくします。
あと、烈男君はおそらく10歳前後だとは思うのですが結構戦えるというか父親のピンチを何度も救ったりバディものに近い空気もありますね。
まるで獅子は生まれた時から獅子である、と言うことを表現しているようです。
だいぶ振り切ったバイオレンス描写
そもそも獅子王自身がめっちゃ強くて「神王朝絶対殺すマン」になってるので手向かう奴らに容赦しない。
下の画像は第一話にして繰り出した獅子拳必殺斬足刀なんですけど相手の両脚を横蹴りでぶっ飛ばすとか信じられないパワーを秘めています。
なにこれこんなのはじめて、と当時は獅子王の強さに恐れおののきました。
それでも息子である烈男が長じるにつれて「教育上悪い」と判断したらしく、刺客を倒す時も人体を損壊しすぎない、極力とどめを刺さないスタイルに変えたとのこと。
あくまで極力、なので絶対ではありません。
おそらく読者である我々にも配慮して頂いたのかなあと今では思っています。
第一話があまりにも衝撃的というか「獅子王キレッキレ」だったのが子供心におっかなかったのですが、最近読み返してもめっちゃキレてるという印象でした。
舞台のスケールの大きさ
前述した通り、獅子王は獅子拳を極めるために中国を離れ、シルクロードからはるかローマ帝国に赴き、そこで最強の獅子をぶっ殺して帰ってきます。
当時はまだ子供ですので、まずローマというのが想像がつかなかった。
言葉の意味はよく分からないけどとにかくすごい遠くで物語が始まったということだけは分かり、わけも分からず高揚したことを覚えています。
その後は基本中国を舞台にしてますので全体を通して見ると「何でわざわざローマに行ったんだろう」とうっかり思ってしまいますが、獅子拳を極めるためにライオンを探して西へ西へと移動してたらいつの間にかローマで拳闘士まがいのことをさせられていたということかも知れませんね。
ライオンもたまったもんじゃありませんね!
カバー裏から伺える先生の人柄
こちらは1巻カバー裏の作者コメントからの抜粋なのですが、前記の通り相当にハードな内容にもかかわらず小林先生は結構ひょうきんな著者近影を載せていらっしゃいます。
繰り返しになりますけどこの物語はいきなり暗い雰囲気で始まります。
そうした空気に子供達が委縮してしまわないように小林先生はあえてこうした明るい雰囲気の写真を採用したと私は考えます。
参考までに、小林先生と同時期にコロコロを支えた「超人キンタマン」でおなじみ立石佳太先生はこう。
まさかの全身像。
…コレを見た後だと「小林先生大人しいな」と思えてくるから不思議ですね。
2回ある最終回
獅子王伝は実質2回最終回があります。
ひとつはコロコロコミック本誌の、もうひとつは別冊コロコロのものです。
何らかの理由で当時の私は別冊コロコロを購読するのをやめていましたので、永らく獅子王伝の最終回は本誌バージョンしか知りませんでした。
しかし最近偶然手に入れた単行本により、別冊コロコロに掲載されたというトゥルーエンディングを読むことが叶ったのです。
別冊版最終回の方が名前だけ出てた龍王とのバトルも決着して伏線拾えてスッキリした感じではあるのですが、こちらも神王朝二十万兵士の中にたったふたりで飛び込むところで終わっているので、その後どうなったのかが気になるのはどちらの最終回でも変わりありません。
個人的には本誌版の親子獅子並び立つイメージ映像とモノローグで綺麗にシメた最終回の方が好みですね。
数十年の間、私にとって獅子王伝の最終回は本誌版だったことも影響しているのかも知れません。
まとめ
復讐を見据えながら未来を忘れなかった男達の物語。
もしもの話ではあるのですが、仮に烈男まで命を落としていたら獅子王は自暴自棄のまま神王朝に立ち向かい、報われない旅を続けていたでしょう。
獅子王を人としてとどめていた光明は烈男だったんだなと今は思いますね。