本数は言うほど観てない映画好き、平八です。
今夜は主に日本映画の面白さを取り扱ったプレゼンドタバタ漫画「邦画プレゼン女子高生 邦キチ!映子さん」(服部昇大先生作)のレビューです。
日本映画と言っても構える必要はありません。
しょっぱなから「実写版・魔女の宅急便」が来ることからも分かるように、「ややマニア向けで楽しめる映画」のプレゼンが目白押しなのです。
絶妙なネタバレの度合い
<あらすじ>
映画好きの高校生小谷洋一は「映画について語る若人の部」を設立するも、一向に部員が入って来ず懊悩する日々。
そんな折、若さ溢れる後輩・邦吉映子が入部希望者として部を訪れるも、彼女は日本映画を偏愛する女学生だった。
本作では15本の映画が紹介されており、恥ずかしながら私はそのうち二本しか事前に観ていませんでした。
電人ザボーガーとデビルマンです。
そのため、この二本を扱った回は作品を知った上で漫画本編を読むことになったのですが、特に電人ザボーガーの回で「うまいこと作品の芯に触れずに初見の客に興味を持ってもらえそうなところをピックアップしている」点に感心しました。
あんまりネタバレしすぎるとこれから興味を持って観ようとする客の意欲を削ぐかも知れない。
さりとてある程度映画の内容に踏み込まないと映画を題材にした意味がない。
実際この漫画を読んで興味を持った「バーフバリ」を観てみると、確かにピックアップしたシーンは衝撃的ですが、そこ以外にも見どころが大量にあって「むしろアレはほんのさわりだったんだ」と思わされました。
こういうバランス感覚の良さは服部先生の持ち味かも知れません。
「実写版・魔女の宅急便」はだいぶオチのあたりまで話を出していましたが、あそこまでばらしてもいいんでしょうかね。
「トンボが逆上してキキをしばく」という展開が怖くてまだ観ていませんが、そのうち勇気を振り絞って観てみようと思います。
トンボはキキに手を上げたりしない!!(逆上)
2018年9月16日追記:
「実写版魔女の宅急便」視聴しました。
こちらもやはり「うまいこと説明してるなあ」と感心しましたね。
クライマックスのところとかそう表現するしかない内容だったので。
ただ惜しむらくは、「ああこの人が歌うんだ…」と割と序盤の方で気づいてしまうのでもうその段階で面白くなってしまった点です。
出来ればあのクライマックスは前情報なしでいきなり観たかったところですが、本作が無ければ恐らく「実写版魔女の宅急便」を手に取ることはなかったと思うので、難しいところです。
ネット時代に対応した映画鑑賞への警鐘
主要人物である部長・小谷洋一のルックスが、少し長めの黒髪、うりざね顔、切れ長の目…。
狙ってやったんでしょうが、旧世紀のハンサムデザインです。
言ってることも古風なので、現代よりちょっと古い時代の話なのかなと当初は思っていましたが、驚いたことに現代のトレンドとリンクしています。
よってやや古めかしいルックスの部長もネット上の映画の評判とか結構気にします。
観たことはないけど…ネットの評判あまり良くなかった奴だろ? とつい口に出してしまうことも。
そういうある種情報の渦に呑まれかけている部長を一刀両断する映子さんに頼もしさすら覚えますね。
ただ、部長も普段は映子さんのことを恐れてはいますが「こいつの感性わけが分からねえし時々怖いけど、こいつの映画を好きという気持ちは否定したくない」という一本筋の通った思想の持ち主であるため、好感度は高いです。
男前かつものの考えもちゃんとしているのに「どうやらモテてはいない」のは、進学校でありながら映画鑑賞にうつつを抜かす(実際の進学校ってそこまでガチガチじゃないような気はしますけど)姿があまり好意的に取られていないか、「ああ、あの変態集団の元締めの…」というパブリックイメージが校内で出来上がっているため女生徒が寄ってこないかのどちらかではないかと想像しています。
部員基本二人(+遊撃隊一人)という時点でちょっとはぐれてるイメージはありますしね。
地雷原に片足を踏み入れるがごとき行為
以前レビューしましたが、作者の服部先生はあの「テラフォーマーズ」のスピンオフ「本日のテラフォーマーズはお休みです。」を執筆されていました。
かような立場で実写版「テラフォーマーズ」について言及するという、なかなかの勇敢っぷりを見せつけます。
ただし、流石にちょっとバツが悪いのか、その回はあまり内容に触れることなく「原作と違いキャストがほぼ日本人」「バッタの力を手に入れた山Pが注射を打つたびに頭が伸びる」というネタで軽く扱ったくらいでその回は「部長が男気を見せる」ところと「部長を破滅させまする~」が妙に可愛かったことの方が印象に残ります。(詳しくは単行本10本目参照のこと)
メディアが違うとはいえ、扱いが難しかったろうな。
仮に作品として面白く昇華出来たとして、火中の栗を拾いに行くのと似たようなもんだしなあ。
色々仕事をやってるとそういうしがらみが生まれるのもままなりませんね。
セカンドシーズン展開予想
さて、本作はそもそも「スピネル」というサイトで無料展開されていた作品を書籍化したものです。
(注:単行本化される際に描き下ろし作品として実写版「デビルマン」の回が追加されています)
ちなみにこちらのサイト、ちょっと前までは全話無料で読めていましたが、単行本発売後の8月30日現在では第一回と第十四回、そしてコミックス発売に合わせて描かれた二作しか読めなくなっていました。
商売上手ですね。
本作に興味が出た方はまず公式で読める分だけ読んでみて波長が合うかどうか試してはいかがでしょう。
ギャグマンガって肌に合うかどうかが重要ですしね。
話を戻しますと、8月30日現在の公式ページでは部長が神妙な顔で「売れ行き次第では再開もありうる…だから…」と言葉を濁しています。
描き下ろしの「デビルマン」回は結構いい感じに締めているので、仮にこの先連載を再開するとなると、今後はワールドワイドな展開もありうるかなと考えています。
具体的にはおフランス映画に傾倒する「仏キチ」や、ロシア映画しか興味のない「露キチ」など、半ばレギュラーと化していたアジアの申し子ヤンヤンに加えて世界の映画ファンが「映画について語る若人の部」にちょっかいをかけてきて、毎回自分の言いたいことだけ言って帰って行く物語。
元はと言えば部長が「一緒に映画を語り合う仲間が欲しかった」と部を設立したのが全ての始まりなので、ふたりきりだった部がとても賑やかになっていくのを内心ちょっと喜びながら「思ってたのと違う…」と頭を抱える日々。
だいぶ収拾がつかなくなりそうなので妄想はこのくらいにしておきましょう。
個人的には時の砂に埋もれた邦画を発掘、プレゼン、部長驚愕という流れで十分面白いので再びご教授頂ける日を楽しみにしています。
追記:2018年9月5日、セカンドシーズン決定したとのこと。おめでとうございます!
まとめ
映画を未見でも面白い、作品を観ればより楽しめる本作。
このチラリズムの達者ぶりには舌を巻いてしまいました。
なので、皆さんも本作を読んで興味が沸いた映画があればどんどん観ていきましょう。(←都合4本しか観てない奴が何か言ってる)
(追記)第2巻レビュー(2019年4月25日刊行)
結構前(これ書いてる時点で2019年10月)に出てた第2巻の追加レビューです。
実は第3巻発売ももう目前のため、ちょっと出遅れた感はありますが見逃して頂ければ幸いです。
もはや準レギュラーの清水崇監督
役者側で出演してるとは予想外だった。
ていうかどこからそういう映画探してくるんだ。
映画好きが高じてスタッフ目当てで映画を探してたら突き当たったとかそういう感じなのか。
そうした二次元と三次元の不思議なコラボを交えつつ、本作も超有名漫画の実写版や中国の凄まじいパワーを秘めた映画、割と昔の名作など様々な不思議映画のレビューに取り組んで行きます。
中国映画界事情とか知らなかったんですけど冷静に考えたら日本の十倍以上の人口がいるんだから映画の興行収入だってどえらいことになるよなと妙に納得します。
戦いは数だよ、と言うと怒られるかも知れませんけど経済に関しては正義なんじゃないかと思えますね。
あと、ちょっといい感じになりかけた書き下ろしの「聖地巡礼旅行」編で紹介された「幻の海」ですが、偶然にもちょっと前にケーブルテレビで放送してたのを録画していたのでいずれレビューしたいと思います。
このマンガ結構映画を観るきっかけになってます。
やっぱり部長はいいやつ
割と映子さんのこと気にかけてたり、はみ出し者のためにこの部を作ったとクールに決めるところとか今作も変態達の熱量に押されながら見せ場を作ります。
部を作ったらいつの間にかはみ出ていたような気もしましたが、それはそれ。
浅い映画マニアだの自分に優しい映画しか好きになれないだの色々といじられてますが、本編屈指の常識人キャラのためキメるところはキメてくれます。
女子三人だけだと話が進まないと思うし。
でもまあ今回のイチオシは「ママレード・ボーイ」回に出てた担任の先生ですけどね。
ちょっと気弱そうで可愛い。
勇気づけられるあとがき
個人的な話で恐縮ですが、会社の後輩がなかなかの映画マニアであることが判明し、当ブログで映画レビューなど書いてる都合上どうしても気にしてしまうのです。
「やべえ負けてる」と。
俺学生の頃でも一日何本もハシゴしたりしなかったわ、と比べてしまうと背中をイヤな汗が伝い、どんどん萎縮していく私の心。
そういった感情をふわっと包み込んでくれるのが今回のあとがきです。
詳しくは実際に目を通して頂きたいのですが要約すると「映画歴浅くても気にするな、お前の感じたままに語れ」ということです。
個人的には「超強台風」の市長のテーマを流したいくらいのアツいあとがきでした。
(それが言いたかっただけじゃないのか)