再放送でメリー・ポピンズ観た記憶があります、平八です。
今夜は少女漫画誌「なかよし」のあゆみゆい先生作「チム・チム・チェリー」のレビューです。
知らぬ間に自分も育つ育児かな
〈あらすじ〉
マクレガー家にやって来た不思議な力を持つ乳母チェリー。
しかし彼女はまだ若く、今回が初仕事だった。
いきなり4人の子供の世話をすることになったチェリーの苦闘は続く。
本作は1992〜98年まで、なかよしの増刊「るんるん」で掲載された物語です。
あゆみゆい先生ご本人も語っておられる通り、タイトルは「メリー・ポピンズ」から連想したものですね。
(もっとも先生はアイデアを思いついた時点ではメリー・ポピンズを乳母ではなく家庭教師だと思っていたとのこと)
本作の主人公である乳母一族の出身・チェリーは年齢不詳の魔法少女ですがまだ経験も浅く、理屈屋のロビン、おしゃまなメグとおっとりリズ、赤ん坊のロッテに振り回されながら日々を過ごします。
この構図が面白いのはチェリーも子供で半人前のため、子供達の悩みや寂しさに触れ合ううちに自身も成長していく姿が分かりやすく表現されている点ですね。
大人の半人前の乳母が奮闘する物語でも成立したかも知れない。
しかし、あえて読者と年の近い子供を主人公にすることでチェリーの迷いや苦悩を等身大のままで届けることを選んだように思います。
本人も未完成であるからこそ読者は彼女の様々な葛藤に引き込まれるというか。
実は私も本作は初見ではなく、それこそ二十数年前に妹が読んでいた雑誌の中で本作を見つけ、途中まで読んでました。
(だいたい2巻の途中まで)
オッサンになった今、改めて読むと「子供はこういう風に感じているのかも知れないな」と昔とは違った視点で読める描写もあります。
「普段聞き分けのいい子でも寂しいものは寂しいよな」と自分の近しい子供達の事を想い、納得させられる一幕もありました。
様々な経験をしながら少しずつ大人になっていく子供達とチェリー。
本作はそうしたふんわりコメディ成長物語なのです。
本作はマンガ図書館Z、あるいはKindle Unlimitedで読むことが出来ますので、お好きなプラットフォームで是非。
外部リンク:マンガ図書館Z
(※「チム・チム・チェリー」で検索すると1巻が出てきます。全3巻無料で読めますが広告はすごい出ます)
イギリスにちょっとかぶれたりする
本作は本場エゲレスが舞台なので、英国の風習や逸話、ゆかりのあるキャラクター達が多数登場します。
ピーターパンや妖精達、童話の登場人物、切り裂きジャック…
待ってくれあゆみ先生。
ジャックは読者層的にアリなのか。
確かにイギリスには違いないし、その回のおかげで大体いつの時代の話なのかは分かったけど、しかし…
普段の作風はマジカルでプリティな空気に溢れているのですが、この回は唐突に「殺人鬼」とかってワードがぶっ込まれてギョッとするお話でした。
それ以外にもコラムの中で「過去のイギリスにおける乳母の立ち位置」などもふれられていて、結構ためになる話も聞かせて頂きました。
とりあえずイギリス人とのティータイム時には「貴卿はミルクを後に入れる派かね?それとも先に?」と聞くことは忘れないようにしようと思いました。
シェリー姉さんに育てられたいだけの人生だった
いきなり何を言いだすんだこのオッサンと思われた方のために説明せねばなりますまい。
シェリー姉さんとは7人姉妹のチェリーの2つ上、5番目の姉様なのです。
そもそもチェリー以外の乳母も女性しか出てこないので、チェリーの家柄だけが格別女系というわけでもなさそうです。
伝統的に乳母の一族とは女子しか生まれないのか、それとも男子が生まれた時は一族に加えず人界に戻すのか、考えれば色々出てきそうな設定ではあるのですが今は置いておきましょう。
それよりシェリーです。
・基本的に美形。
・主人公より大人びている。
・おっとりした立ち居振る舞い。
・妖精と心を通わせることが得意。
・過去のある出来事から心に傷を負っている。
・怒ると怖いらしい。
まあ…姉さん好きが吸い寄せられるキャラですよね。
個人的には怒りが爆発する寸前らしいこのコマ。
このシーンにやられました。
あゆみ先生のコラムにも「シェリーは男性人気があった」とのこと。
チェリーの姉はもう1人キャリーという子(画面左上の子)が登場して、そちらは男性人気は今ひとつだったようで、あゆみ先生は母心からか嘆いておられました。
いやまあ…あるよね、男性ウケする女性像というか。
キャリーみたいなおきゃんな子の魅力に気づくのはもうちょっと大人になってからっていうか…
これ以上のキャラ語りはちょっと皆さまもキツいと思うのでこの辺でお開きにしますが、本作は主役のチェリーだけでなく、脇も良キャラで固めた作品だということが言いたかったのです。
夢見る子供を守る、それが乳母
折にふれてチェリー達乳母の一族は「少しだけ大人の目線から」子供が夢を見ることの大切さを説きます。
それはあゆみゆい先生が本作を通じて一番伝えたかったことなのかも知れないですね。
この物語が描かれたのは90年代だったわけなのですが「今も昔も世の中は世知辛かったのかな」と思いを馳せずにはおれません。
だからこそあゆみ先生は繰り返し夢見ることの大切さと夢の美しさを説いていたようにも思えます。
まだ子供だった頃に読んだきりの作品で、懐かしさのあまり再び手に取りましたが当時は見逃していた色々な想いが込められていたんだと改めて気づかされました。
まとめ
なんか女の子って砂糖とかそんなんで出来てるらしいですよ。
それは冗談としても、子育ての大変さや心中にふと魔が差す描写などを挟みつつも重くなり過ぎないのはチェリーの人徳のなせる業か。
読後にさわやかな満足感が残る優しい作品ですね。