原作付き実写映画は嫌いじゃないです、平八です。
今夜は高橋葉介先生原作「夢幻紳士」の実写化「夢幻紳士人形地獄編」のレビューです。
公式サイト:
怪奇冒険浪漫漫画の実写映画化
高橋葉介先生の代表作ともいうべき、妖しい魅力を漂わせた探偵・夢幻魔実也の冒険活劇「夢幻紳士」。
そのエピソードのひとつである「人形地獄編」の実写化です。
多分皆さん同じところで「えっ?」となったと思うんですが実写版魔実也が割と大人。
ただ、私は年代的に冒険活劇編の頃の読者なので知らなかったのですが、青年魔実也が活躍するシリーズもあるとのこと。
でも原作の「人形地獄編」は少年魔実也のシリーズらしいです。
物腰や物言いは大人びているもののまだ少年と言ってもいい年頃の役にあえて美中年を連れて来る海上ミサコ監督のチャレンジ精神。
役者の皆木正純さんもそこは意識されてるようで後述の舞台挨拶では自らネタにしていらっしゃいました。
ただまあ個人的な感想ですが、物語が進むと意外と気にならなくなります。
ひとつには私の中で「媒体が異なるのだから多少の差異は広い心で見よう」という心構えがあったことと、皆木正純さんが夢幻魔実也を自身の中で消化し、映画の世界観に合う魔実也像を作り上げていたせいかも知れません。
(原作でもそういうことするかなあ、というおどけるシーンがあったり)
でも魔実也はあんまヘビースモーカーのイメージないのでそこは気になりました。
スッパスッパ吸ってましたからね。
後はそこ以外の要素が濃かったので魔実也がアダルトなことを気にしてる余裕がなくなったというか。
白状しますと原作の人形地獄編を未読でして、ある意味まっさらの状態で視聴したのですが、例えば私が「犬の演技えげつなっ」と思ったところが実写オリジナルだったり他にも独自の解釈をなさっているようで、後日原作を拝読するのが楽しみになってきました。
役者の演技力のウェイトがすごい
上の方でも少し触れましたけど、催眠術で自分は犬だと思い込まされた十勝十蔵の犬の演技が軽く引くぐらい頑張ってたり、役者さん方の熱量のある演技が映画を引っ張ってました。
主人公の魔実也が基本テンション低めなので特に女性陣とのいいコントラストになってましたね。
冷静になってみると女性陣は9割ぐらいはイカれてたような気も。
ただ、あの特殊な熱量が息苦しい空気と混じり合うことで独特の味わいを醸し出していたと思えるのであの熱演は必要だったのでしょう。
ちなみにヒロイン・三島那由子のお母さん・ミツさんは大体いつも不機嫌で寝てる魔実也の顔に花瓶の水をぶっかけたりするんですけど舞台挨拶の時は全然普通でした。
あと個人的に結構好きな場面がありまして、狂気の異能力者・雛子が那由子を惑わす倒錯したシーンで軍人と思しき青年の人形が佇んでいるのですが「…にんげん?」とずっと思ってました。
まばたきも見てる範囲ではしてないけど血色いいしな…とか思ってパンフレット確認したらやっぱり人間でした。
雛子は人の心に暗示をかけて犬にするのも人形にするのも自在に出来る、という設定なので那由子を人形にする前に誰かを人形にしていても展開的には不思議ではないのですが、特に青年についての解説もなくそのまま流されたので彼の出自についてはあいまいなままだったのですが、割と長めのシーンでもまばたきせずに人形に徹する役者さんの根性に感服しました。
余談ですけど青年の人形役である山田歩さんはプロフィールに二児の父という情報が添えられており、なんか微笑ましかったです。
令和の時代に格別の昭和初期の再現度
まあ時代設定に合わせたと考えると再現度を褒めるべきというか。
一緒に購入したパンフレットを読むと「ぜってえ電柱は映しちゃなんねえ」という固い意志の元ロケ地を転々とし、格別の苦労をなさったとのこと。
昭和初期ってもうすっかり時代劇のカテゴリーなんだなあとしみじみしました。
緊張が伝わってくる舞台挨拶
でもこれって舞台挨拶の醍醐味ですよね。
スクリーンの向こうで演技してた人達が素で登場して挨拶するのって。
この独特の空気が好きで、行けるタイミングがあったらつい行ってしまう。
今回は公開初日(2021年6月26日)の映画終了後に監督とキャストの方々が集まって映画についての裏話などをお話しされました。
全員登壇された時に皆木正純さんが作中では黒髪だったのにロマンスグレーになってて驚いたんですけどクランクインからアップまで何年もかかったそうです。
そのせいで僕の頭もこんなんなっちゃったよーと笑ってらっしゃいましたがギャグなのかどうかいまいち分からなかったので笑えませんでした。
しかし立ち姿が非常にキマっており、実物見ると雰囲気あるなあと感心しながら見ていました。
あと何回も引き合いに出して申し訳ないんですが、十勝十蔵役の杉山文雄さんが監督のムチャ振りに答えた結果早朝から犬になりきる稽古をしてたとかめっちゃ面白い話が聞けたので満足です。
何がそこまで駆り立てたんですかという。
印象深かったのは海上監督が若い頃に夢幻紳士に触れ、いつか映画にしたいという想いを抱いてやっと成し遂げたというエピソード。
パンフレットで若干補足されており、高橋葉介先生に重量オーバーするほどの分量の手紙を送ったとか予算が結構厳しかったとか平坦でなかったことは想像に難くありません。
それだけにこの日は想いもひとしおだったろうなとややテンション上がり気味な監督を見つつ、他人事ながら感慨深かったです。
妖しい世界を存分に楽しもう
小堀さんめっちゃ可哀想でしたけど、魔実也のような男を好きになってしまうものなんでしょうかね。
高橋先生の漫画は独特の筆致と世界観が導く妖しい空気が持ち味のひとつだと思っていますが、この実写版は実写にしかできない手法で妖しさへのアプローチをしていたと思います。
異能力バトルの表現についてはもうちょっと濃い味付けが欲しかったところではありますが、現代が失った夢と現の曖昧さを楽しめる一本でした。