80年代コロコロキッズ、平八です。
国民的漫画の一角と言っても過言ではない「ドラえもん」ですが、今から三十年も前に「ドラえもんの各種データ、裏エピソードを網羅したマンガ」が発刊されていたことをご存知ですか?
我々世代のコロコロキッズであればある意味常識なのですが、今夜は方倉陽二先生作「ドラえもん百科」のレビューです。
藤本弘先生の隣で生まれた怪作
作者は「アカンベー」「のんきくん」等を代表作とし、長年藤子不二雄先生のチーフアシスタントを務め上げた方倉陽二先生。
同時期に藤子スタジオでアシスタントをしていたえびはら武司先生の証言によると、方倉先生は長年藤本先生の物理的に隣でアシスタントをしていたのです。
つまり、本作は限りなく公式に近い設定集と言えます。
例を挙げると、ドラえもんファンの間では常識とも言える「ドラえもんの誕生日は9月3日」という情報も藤本先生は時々忘れており
藤本先生「あれ、ドラえもんの誕生日っていつだっけ?」
方倉先生「ンモー、この前決めたじゃないですか、羽中ルイ先生と同じ9月3日にしようって」
というエピソードもあり、明らかに方倉先生主導で生まれたと思われる設定も多々あるのです。
このあたりはえびはら先生作「藤子スタジオ アシスタント日記 まいっちんぐマンガ道」に詳しいので、興味があればご一読下さい。
そもそもこの本を描く際は「好きにやってよい」とお墨付きを貰っていたようなので、今見るとやりたい放題ですね。
いややりたい放題すぎるだろ。
特に有名な「ドラえもんの耳はネズミにかじられた」「元は黄色いボディだったが、耳を失った自分の姿を見て青ざめた結果今のボディカラーになった」「ドラミちゃんとは同じオイルが流れている実の兄妹」設定はこの頃から語られています。
今ならば「いくらショックでも身体の色まで青くなるわけねえだろ」とツッコむところですけど、当時の純真だった我々は遂に明かされたドラえもんの悲劇的な過去にショックを受けたものです。
ついでにこの時女にフラれてるし。
しかし、当時既にのび太と一緒にバカをやる時期を終え、保護者的な一面を見せ始めていた「本家」ドラえもんにはない破天荒な「百科」ドラえもんにも魅力を感じていたのは否定できません。
やたら淀川長治さんのモノマネをしたがるという特徴もありますね。
存分ににじみ出る方倉テイスト
リアルタイムで読んでた頃は最初は気づきませんでしたね。
この作品が藤子不二雄先生の手になるものではないということに。
そしてどうやら時々出て来るこのヒゲのおじさんが描いているということにある日急に気づきました。
前述の通り、方倉先生は藤子先生のチーフアシスタントを務めてらっしゃいましたので絵柄というか雰囲気を似せて描くのは造作もないことだったでしょうが、それでも方倉カラーとでも言うか随所に個性は出ています。
・当たりの強いギャグ
ここは本当に方倉先生のテイストが出てるというか、だいぶバイオレンス色が強かったりドラえもんに辛辣だったりします。
ただ、ドラえもんもされるがままではなく結構殴り返しているので作品としてバランスが取れてるというか、「本家」の暴力装置が基本ジャイアンのみという状態を考えると「百科」は常在戦場とでも言うべきフィールドでギャグをぶちかましてきます。
ここはおそらく非常に好みが分かれると思いますね。
あとショートエピソード多めなのでテンポの良さに引き込まれます。
・八頭身ドラえもん
「百科」を語る上で外せないのがこちら、八頭身ドラえもん。
2000年頃ネットで妙に流行った「リアル体型」「八頭身のモナーはキモい」の源流は既に二十年も前に完成していたのです。
八頭身にも「顔はいつものドラちゃん」「鼻筋がビシッと通った本格派」のようにバージョン違いはあるものの、どっちにしろ違和感しかないです。
私もこのキャラ大好きでした。
真面目なシーンでもギャグシーンでも出せる汎用性の高さは特筆すべき点です。
・オネエもん
これが1970~80年代に描かれたものと考えると恐るべき慧眼と言わざるを得ませんが、方倉先生はこの頃ドラえもんに母性というかオネエの片鱗を見出していたのです。
一応この回はもしもボックスで「ドラえもんが女性型ロボットだったら?」という世界を作り出した実験回だったのですが、見た目変わってないのでただのオネエになってしまっているという戦慄。
お前その頭に巻いてるの何だよと子供でも流石にツッコミましたね。
それ以外にもドラえもんがのび太のイタズラから分解され(これだけで衝撃的ですが)組み直された時にあるパーツが余ってしまい、それが無いせいでドラえもんがオネエになるエピソードもあり、オネエとドラえもん百科は切っても切り離せないネタと言えましょう。
ペルシャ君に首ったけ
本作は2巻の最後の方はほぼドラミちゃん百科にスライドしており、そこでドラミちゃんには両手の指で足りないくらいボーイフレンドがいることが判明します。
今だったら大炎上ものですね。
さておき、数多いるボーイフレンドの中でも一際異彩を放つのがペルシャ君なのです。
異彩を放つというか、そもそもひとりだけ世界観違わない? 君。
ロボットなのかそうで無いのかもよく分からないし。
で、このコーナーは恋多き女の一発ネタかと思いきや、その後ドラミちゃんがボーイフレンドを集めて自宅でパーティーという文春がイキり立つような回があり、当然のようにペルシャ君も再登場します。
お遊びじゃない、方倉先生は本気だ…!
これペルシャ君が公式設定になってたらどうなったんだろう。
面白すぎるんですけど。
「ドラミちゃんのボーイフレンドの座を勝ち取るためにスターの座をなげうった」って、ペルシャ君自分を追い込みすぎじゃない?
他のボーイフレンドと本気度が違って怖いんですけど。
楽しいパーティーの時にも「チエッ、ドラミの奴め、俺以外の男と楽しそうにしやがって」と若干ふてくされてるところが可愛いですね。
それでも集合写真ではニッコリ笑って想い出を残しているのがさすがプロだ、ちがうなあ…と思わされました。
というかペルシャ君は都合三コマしか登場してないのに妙にキャラが立っててすっかり心を奪われてしまいました。
あとボーイフレンドネタに自ら体を張ってオチをつける方倉先生のプロ根性も勉強させて頂きました。
まとめ
本作は当世風に言えば「スピンオフ作品」だったのかも知れません。
「ドラえもん」という作品の世界観をもっと深く掘り下げるのに一役買った先駆け的な作品だったと今では思います。
広い懐を持ったドラえもんワールドを縦横無尽に駆け巡った怪作、それが「ドラえもん百科」だったのではないでしょうか。
いや…違うかもしれない。